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Interview

「生物の大型化、多細胞化には『抑制系の進化』が関わっています」(高木由臣インタビュー①)

 生物は、細胞分裂するだけのバクテリアのような生き物と、たくさんの細胞から成り立ち、有性生殖をして子孫を残す大型生物に大きく分けられます。 

 前者は原核生物、後者は真核生物と呼ばれますが、存在のしかたがまったく違っています。 

 真核生物の末裔である僕たちからすれば当たり前の……時間とともに老いて死ぬこと。寿命があること。オスとメスが出会って子孫を残すこと。 

 目に見えない小さな生き物たちは、こうした時間軸によって成り立つ世界とはかけ離れた場所で繁栄をつづけ、僕たちの生存に様々な影響を与えてきました。 

 時間のない世界と時間のある世界が重なり合い、たがいに影響を与えながら存在しているこの世界の不思議なありようを、どう解いたらいいのか? 

 時間とは? 寿命とは? 生殖とは? 

 ゾウリムシの研究を通じて、《生老死の謎》を追いかけてきた高木由臣さんを京都に訪ね、生命の進化にまつわるお話をじっくりと伺いました。 今回はその前編。

 

 

抑制することで進化してきた 

 

——生物って、原核生物のほうが構造がシンプルで、破綻がないように思うんです。より自然に適応しているというか……。 

 

高木 生命が誕生して38億年、まず単細胞の原核生物(原核細胞)だけの世界が20億年ほど続きました。 小さなゲノムのまま、より早く、より多くのコピーを作っていくのが彼らの生存戦略であり、38億年間、この戦略でいまも繁栄しています。全然困っていないわけですね。 

 

——では、なぜ大型化したんでしょう? 

 

高木 原核生物から真核生物が分岐した時、真核細胞はゲノムサイズと細胞サイズの大型化という特徴を持っていました。

 ゲノムの大型化は遺伝子の多様性を生み、多様な生活様式を可能にしました。また、中身が大きくなると容器である細胞も大型化し、もともと繁殖していた原核生物……つまり細菌(バクテリア)をエサにできるようになりました。 

 エンドサイトーシス(飲食作用)といって、周辺の原核細胞を取り込むシステムを備えることで、自在にエサが手に入るようになったのです。 

 

——それが、新しい生存戦略になったと。 

 

高木 ええ。ただ、こうした大型化を保つには新しいメカニズムが必要になりました。 

 ゲノムが大型化することで突然変異のターゲットが増えますから、まずそれにどう対応するか? また、多細胞化することで細胞の数が増えすぎないよう細胞間で協調をはかる必要も出てきます。

 どちらも抑制が求められることから、私はそれを「抑制系の進化」と呼んでいます。生命の進化には、抑制が欠かせないのです。

 

——オーソドックスな進化論だと、生物は「だんだん進歩して、高等生物に発展していった」とイメージされがちですよね? 抑制系の進化というと、それとはまったく逆の視点という感じがします。

 

高木 生物の進化で問題になるのは、何か変わったものができた時、その変わったものの生きる場所があるかどうか? 自然淘汰に引っかかるかどうか? ということです。

 高等生物になるほど生物として発展した、というわけではありません。どの生物であっても、「与えられた環境のなかで生き延びるためのニッチを見つける」ということが大事なんです。

 

——そのニッチを見つけ、適応できるかどうかが、生存のカギであったと。 

 

高木 そうです。ただ、真核生物の登場はバクテリアにとっても有利なことでした。 

 たとえば、実験室で培養液の入ったフラスコにバクテリアを入れると、翌日には飽和密度に達して、泥水のように黒く濁った状態になります。そこにゾウリムシを入れると、バクテリアをエサに倍々に分裂して、フラスコが徐々に薄黄緑色の透明な状態に変わっていきます。結果的に、バクテリアがゾウリムシに変化していくわけです。 

 

——すごい。閉鎖された環境のなかで、生と死が入れ替わっていくと。 

 

高木 ええ。それで、ゾウリムシが飽和密度に達すると、やがて飢餓が起こりますね。バクテリアが減って、ゾウリムシのエサがなくなるため、ゾウリムシが飢餓死していき、今度は残ったバクテリアがゾウリムシの死体をエサにして増え出すんです。 

 現役時代、私はそれを目の前で見ながら、「あっ、今度はゾウリムシがバクテリアに変身している!」と驚嘆したことを思い出します。 

 

——食う食われるの関係が入れ替わるわけですね。 

 

高木 そう。考えてみれば、バクテリアはいまも我々の体のなかに入って生きているわけです。我々は感染されて困っていますが、彼らにとってはいいエサ場なんですね(笑)。 

 

 

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「工場のプロセスも、最後は『好き嫌い』が問われてきますね」(金尚弘インタビュー①)

この世界にあるものをわかりやすく分類し、そのデータを数字に換えてシェアすること。過去数百年にわたり、科学の分野ではそうした方法論を駆使することで、さまざまな成果を挙げてきました。AIの普及はその究極系とも言えますが、データですべてが語れるわけではもちろんありません。ビッグデータの活用が進み、AIによる自動化が進む時流のなか、システム工学の若き研究者である金尚弘さんが着目するのは、人の身体に内在する意識の働き。人と工場、身体と機械、さらには感情とデータ……対極にあるかのように思えるこの二つの世界をつなげることで、いったい何が見えてくるのか? 普段あまり語られることのない、生物(人)と非生物(機械)の見えざる境界……。その壁を注意深く取り払っていくと、無機質な機械の向こうにひょっこり人の姿が浮かんでくるような……。あるいは、それも幻影かのような……。2018年12月、「骨ストレッチ」を実践されている金さんと、久しぶりに京都で再会。彼の専門分野に分け入った、ちょっとふしぎな対話をお届けしましょう。

 

 

工場というシステムを管理する

 

長沼 工場というのは、それ自体が一つの大きなシステムですよね?

 

 ええ。「原料が入ってきて、製品が出ていく」という大きなシステムと思ってもらっていいと思います。人間の身体を「ごはんを食べて排出物を出すシステム」ととらえるのと同じですね。

 

長沼 人間では「代謝」と呼びますが、そうした入れて出す工場のプロセスが問題なく進むよう、研究に取り組まれている?

 

 そうです。たとえば、更地に工場を建てる場合、まず「入と出」が決まっていて、そのためにどういう設備にしなければいけないかを考えます。それにはどんな大きさの設備や材料が必要か、温度管理をしたり、コスト計算、安全運転を保つためのデザイン方法を考えたり……。

 

長沼 そこも関与されているんですか? 設計自体は設計士さんがするんですよね?

 

 工場を建てるには、コンストラクション(建設)と化学工学の両方が必要なんです。「どんな反応がどれくらい起こるか?」という化学の話は設計士さんにはわからないですから。

 

長沼 入口と出口という言い方をされましたが、それは「原料と製品」ということ?

 

 ええ。たとえば、中東から石油を買ってきて、ガソリンとその他の製品を作るとします。それをどのくらいの施設でどのくらい作れば利益がちゃんと出るのかなどの計算をして、それに見合う設計を考えたりするわけです。

プロセスを建設し、運転するとたくさんのデータが収集できるので、それを見て、安定的に運転されているか、状態が良いか悪いかを自動的に判定する方法を開発したりしています。

 

長沼 一番注力されている部分はどこなんですか?

 

 具体的な事例としては、不良品ができてしまう原因をつきとめたり、データに基づいて状態を予測したり、挙動がどうなっているかを数式化したり……。基本的には、データをうまく使って何かをしていくことが多いですね。

 

長沼 そういう異常は、データに現れ得るものなんですか?

 

 「現れ得る」という前提のもとにやっていますね。設計する時も、センサーを取り付ける場所や個数は当てずっぽうな面もあるんですが、「こういう反応にはこの温度が大切」とか「ここでは温度を測らないといけない」などの知見はあるので、基本的にはそれに基づいています。

でも、多くの種類のデータが高頻度に得られるので、工場に詳しい人でも、どこに異常が現れているかがわからない場合があります。

解析というとAIが全自動でやってくれるイメージがありますが、それほど万能なわけではないので、それを現場でどう活かすか? 現場と機械の間の通訳のような役割もありますね。

 

長沼 人と機械の通訳ですか?

 

 データ解析の方法は詳しいですが、それだけでは現実は変えられないことがいっぱいあるので。

 

長沼 そうやって解を導き出すというのは、工学の分野全般に言えること?

 

 そうですね。たとえば、将棋にも「こういう状況から始めてこうなったら勝ち」というルールがありますが、どうしてそうなるかという情報を与えなくても、コンピューターが勝手に学習して名人に勝ったりしますよね。そういう感じのことを、工場を相手にやっているわけです。

 

長沼 機械に自分が将棋をやっているという認知はなくても、将棋としてのプロセスは成立してしまうということですね。

 

 ええ。現場に解析した結果を提出する時も同じなんです。将棋でも、プロ棋士が見ても変な一手が、よくよく見ると良い手だったりしますが、それって説明が最初はつかないじゃないですか。でも、後々になってわかったりすることがありますよね? それと同じことを工場の改善を目的に行っていると思ってもらえたらいいと思います。

 

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「風土とFOODがつながったきっかけの一つは和辻哲郎でした」(幕内秀夫インタビュー①)

近代以降、日本人の食生活が大きく変わったことはよく知られていますが、それはいいことばかりなく、肥満や生活習慣病の増加に象徴されるように、食原病とも呼べる様々な問題も生んでいます。ミリオンセラー『粗食のすすめ』の著者で管理栄養士の幕内秀夫氏は、こうした状況をふまえ、近代以降に生まれた栄養学、栄養教育の常識そのものを見直す必要があると指摘してきました。今回は、新著『日本人のための病気にならない食べ方』(フォレスト出版)の刊行に合わせ、幕内氏に「食べるとはどんなことなのか?」「日本人にとっての食とは何か?」、インタビューをしました。今回はその前編。

 

食生活は歴史の積み重ねであり、エビデンスはなじみません。

 

――「FOODは風土」と以前から提唱されていますが、どんなきっかけでいつ頃から言われているんでしょうか?

 

幕内:言葉そのものは、和辻哲郎の名著『風土』からきています。ただ、和辻哲郎は「FOODは風土」と言っているわけではありません。「食生活を規定してきたものは風土である」という言葉があるんですね。その前にいろいろなことが重なって出てきた言葉ですが、それが一番直接的なきっかけです。

 

――和辻哲郎の本は学生時代からお読みになっていたんですか?

 

幕内:学生時代ではないです、ずっと後ですよ。

 

――以前、栄養学の世界をドロップアウトされて、様々な先生方と交流されている時代にたくさんの本を読まれたと伺いました。『風土』も、その頃に読まれたということですか?

 

幕内:そうですね。私が学生時代に勉強したのは「食品学」であって、「栄養学」ではないと気づいたんです。それで、栄養学を学ぶとなると読む本がべらぼうに広がったんですね。そのなかのひとつとして、哲学者の本ですが和辻哲郎の『風土』にも出会ったということです。

 

――なるほど。そのあたりがベースにあって、最初の本を出された頃に「FOODは風土」という言葉が出てきた?

 

幕内:どの本で最初に書いたのかまでは覚えていないですね。ただ、本で大きく影響を受けたのは、和辻哲郎の本と、ウェストン・A・プライスというアメリカの歯科医が書いた『食生活と身体と退化』です。

 

――(『食生活と身体の変化』では)先住民の歯の変化を写真にたくさん残していますよね。

 

幕内: 1930年代、歯科医師であった著者が世界中の未開民族などを調査していった記録ですが、当時の世界は風土がFOODを決めていた時代が変わろうとしていた頃なんです。だから、同じ地域の中にも伝統食の人と近代食になった人が混在する時期だったんですね。

 

――食によってこんなにも変わってしまうのかという……。

 

幕内:ええ。イヌイットやアフリカの民族などかなりの数の民族を歯を中心に調査して、「これは食生活の変化による退化」だと……。私にとってはこの本からの影響もとても大きかったです。

 

――そうやって本で得たものと栄養士としての仕事をどうリンクされていったのでしょうか?

 

幕内:何を仕事にしようかなど、その頃は思わなかったですね。ただ好奇心で「食生活や本来の栄養学というのは面白いな」と感じていただけですから。こんなにたくさんの本を書くことになるとは思いもしなかったです(笑)。

 

――資格を取るための栄養教育とは、あまりに内容が乖離していますよね? その溝は埋め難いものでしょうか?

 

幕内:英語の授業でドイツ語を教えているようなものですから、どうしょうもないですよ。「栄養教育を変えなければいけない」と気づいてきている人はたくさんいるんです。でも結局、変えられない。いまでも大学、短大などで教えている栄養学の99%は食品学なわけですからね。栄養学と食品学の違いさえ気がつかないのだから、教育が変わるのを待つよりも気づきつつある人に気づいてほしいと思うのが先でしょう。

 

――以前と比べて話されている内容に変化はありますか?

 

幕内:私などは栄養教育に疑問を持って専門学校も辞めて、独学で勉強しはじめて「後はどこで勉強したらいいんだ?」と考えた時、食事療法を中心とする医療機関をいくつも訪ねて働いたわけです。

だから、私が書いた本はそこで出会った先人たちが言われてきたことと大きく変わりはありません。ただ、そうした先生方は早過ぎたんです。当時はピンと来る人がいなかったんですね。

 

――そうした学びの集大成として、『粗食のすすめ』があるわけですね。

 

幕内:私が『粗食のすすめ』を出してミリオンセラーになった時、新聞や雑誌が取材で「なぜこの本が売れたんでしょうか?」と同じ質問ばかりされるものだから「ちょうど風が吹いてきた時に凧を上げたんでしょう」と答えました。風を起こしたわけではないんです。我々の先人たちも凧は上げていたのですが、一部の人の目にしか触れなかった。

ところが、私の本がミリオンセラーになったのは時代が……。

 

――時代の風が吹いてきたと? 

 

幕内:そうですね。(病気の増加など)良くないことがあまりにも多かったからでしょう。

 

――「粗食のすすめ」が出版されてからでも、もう20年以上が経ちますよね。この間、良くないことがさらに増えたと感じますか?

 

幕内:だって、いまはもう「論より証拠」を待っている状態でしょう? これからいよいよ本格的に実証されていくと思いますよ。小・中学生が糖尿病が問題になる時代ですから、私たちが言ってきたことは残念ながら証明されます。実際、沖縄はもう証明されはじめているんですから。

だから、論争的なことはどんどん収縮しますよ。食品はモノですから、情報は相変わらずいろんなものが出続けます。のんきな内容の本もこれからも出ますよ(笑)。ただ大きな流れとしては、私たちが言ってきたことが証明されはじめている時代と言えるのではないでしょうか。

 

――悪い状況が当たるのは複雑な気持ちにはなりますが、予見されたことが現象化してきているということですね。

 

幕内:食事というのは薬と違って間違っても倒れませんから。「緩慢なる自殺行為」であって、食中毒などを除けば急性ではないんですよ。なにも勉強していない人はエビデンスなんて言葉を使いたがりますが、食生活のエビデンスを見出すのは時間がかかります。

それは歴史・時間そのものなんです。歴史が証明するという言い方をすると「非科学的だ」なんて言われますが、食生活については、そんな短期間に証明できるわけがありません。

 

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「自分の世界観が決まっていればいいんです。数値は出さなければいけませんが、問題は自分の世界観です」(中村桂子インタビュー①)

自然を観察の対象にし、それを細部にわたるまで分析することで普遍的な真理を見出す。……この数百年、そうした科学的探求が受け継がれることで、この世界の実体が鮮明に浮かび上がってきましたが、その一方で、分析が進めば進むほど、観察者である「わたし」と観察されるものである「自然」は分離されていき、気がついたら事実だけが一人歩きする味気ない世界に変わってしまった面もあります。

 

「生命誌」(Bio History)を提唱される中村桂子さんは、DNAの研究者として先端科学の第一線で活動されてきた一人。科学の世界のすばらしいエッセンスを大事にしながら、このつながりを取り戻すための新しい学びの体系を伝えてきました。

 

私たち人間は、自分もまた自然の一部であることを忘れ、それにゆえに暴走し、自ら不安を増幅させてしまう、とてもふしぎな生き物。そのふしぎさを優しく受け容れながら、目に見えるものと目に見えないもの、科学と野性をどうつないでいくか? 大阪の「生命誌研究館」を訪ね、「生命誌」の視点から、これからの私たちの進んでいく道すじについてお話を伺いました。今回はその第1回。

 

 

■「一番大事なこと」を考え続ける

 

――『TISSUE』の企画を進めているなかで、たまたま先生の映画『水と風と生きものと』を拝見したんです。それがとても面白くて……。

 

中村 そうですか? 私自身の日常を撮影したいと言われて、「はい、どうぞ」とお任せして、それを藤原道夫監督が映画にしてくださったので、面白いと言われても(笑)。

ここ(生命誌研究館)の展示は隅から隅まで指示しますが、あの映画に口出しは一切していないんです。だから、あれは藤原作品なんです。丁寧に作ってくださいましたが。

 

――ここが先生の作品ということなんですね。

 

中村 はい。もちろんみんなで作ってはいますが、私の作品という気持ちでいます。

 

――映画を観ることで、そうした先生の活動がより身近に感じられるようになりました。

 

中村 書いたものではだめですか?

 

――いやいや、そんなことはないですが。ただ、先生が生命科学を通じて面白いと感じられたことを一般の人にどう伝えるかというところに、「生命誌」を提唱されたそもそもの思いがあると感じたのですが……。

 

中村 いえ、それは全然違います。「広める」という考え方は、私にはないのです。私はここを作る時に禁句を作ったんです。それは「啓蒙と普及」です。「啓蒙と普及」は私の辞書にはないんです。最初、私は「教育」もできないと思って「教育、啓蒙、普及は禁句」と言っていたんですが。

 

――そうなんですか?

 

中村 ただ、education(教育)はもともと「引き出す」という意味ですし、自分の年齢を考えても次世代に残すために何かやらなければいけないかなと思って、(禁句から)教育は外しました。でも、「啓蒙と普及」はいまも禁句です。偉そうに言うことでもないんですけれど(笑)、私は自分が本当に大事だと思うことをやるだけなんです。

 

――それが生命誌研究館であると……。

 

中村 はい。ここを作ったのも、私の本当にやりたいことだったからであって、誰もわかってくれなくてもやっていたと思います。生命誌研究館を構想したのは25年以上前になりますが、その時は親しい友人もわかってくれなかったですね。最近、やってきたことが目に見える形になったことで、周囲の人たちも理解してくれるようになりましたが……。

 

――大衆化を望んでいるわけではないんですね。

 

中村 正直、私はマイノリティが大好きで、何かが流行りはじめるといやになるんです。わかってもらえないのはしんどいですが、わかってもらえないことをやっている時が、一番元気がありますから。

 

――しんどいほうが楽しいのかもしれません。

 

中村 「一番大事なことは何か?」を考え続けることは大好きですが、みんなに無理にわかってもらおうとは思わないんです。理解者がいるのは、もちろん嬉しいですよ。だけど、百人の来館者が来てワイワイと見学するだけならば、3人が本当にじっくり観てくれるほうが嬉しいですね。

 

 

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「腸内細菌との『共生』を視野に入れた食のあり方が、これから問われてくるでしょう」(上野川修一インタビュー①)

近年、腸にまつわる研究が世界的に注目を集めるなか、その重要なキーとして腸内細菌の生態、ヒトの健康との関わりなどが徐々に解明されてきている。ヒトは食べることでエネルギーを得て、生命活動を営んでいるが、それは単独で成り立っているわけではなく、その背後には腸内細菌をはじめとする目に見えない微生物との協力関係、すなわち「共生」がある。食品免疫学の第一人者として、食べ物とアレルギー、免疫などの関係について研究をしてきた上野川修一氏(東京大学名誉教授)に、腸内細菌研究のいまについて伺った。今回はその第1回。

 

 腸はスケールの大きな共生空間

 

――最近話題になることの多い腸内細菌や腸内フローラについて、いま科学的にどこまでわかっているのか? お話を聴かせてください。

 

上野川 ここに来て急激に関心が上がっているように思いますね。6〜7年前から「ネイチャー」「サイエンス」など、広く読まれている科学誌に腸内細菌に関する論文がかなり増えていますから。

 

――これまでにないような状況?

 

上野川 そうですね。腸内細菌の研究は、わが国では光岡知足先生(理化学研究所名誉研究員)を中心に、いわゆる嫌気性培養法を用いることで大きな成果をあげてきました。

 その後、腸内細菌の遺伝子解析から腸内フローラの特徴を知る方法(メタゲノム解析)が開発され、従来の成果と併せて多くのデータが蓄積されるようになりました。その結果、この分野に興味を持ち、重要性を感じる研究者が多くなってきたということでしょう。

 

――そうしたなか、先生が注目されているのはどのあたりの領域でしょうか?

 

上野川 腸内細菌との共生、その延長にある免疫や食についてですね。

 

――テーマというかキーワードが?

 

上野川 はい。たとえば、地球がまだ(酸素がとても少ない)嫌気状態だった頃に微生物が生まれ、光合成をする微生物が繁殖することで酸素が発生して、好気的な環境下になったわけですよね。そこでも生き残って……。

 

――そうですね。酸化のダメージを乗り越え、さらに進化して……。

 

上野川 一方、そうした中でも嫌気的な状態を保ち、人の腸内に棲む場所を見つけた微生物もいます。一般的にはそれが腸内細菌と呼ばれているわけです。

 哺乳類の腸には、体の中で最大の免疫系がありますよね? 免疫は病原性のある菌が棲むのを阻もうとするわけですが、有益な腸内細菌は排除されずに棲みついて、宿主から食を得ることで生存する。宿主である哺乳類はそれを許して排除しないという……。

 

――有益な菌を排除しないのは、「免疫寛容」と呼ばれていますね。通常は免疫が排除するはずが、大腸には有害な菌も存在しています。免疫はどういうふうに見分けていているんでしょうか?

 

上野川 まず、胃では胃酸が分泌されますから、酸に弱い病原菌はそれで殺されてしまいます。そこで生き残った菌は小腸に運ばれていきますが、小腸には上皮細胞にあるパイエル板と呼ばれる免疫器官を中心に、しっかりとした免疫系が備わっているわけです。

 また、そうした有害な菌を排除する仕組みとともに、必要なものを取り入れ、消化吸収する代謝の働きもあります。

 免疫と代謝、両方を併せ持っている小腸は非常に重要な器官だとわかりますが、では、(腸内細菌の棲んでいる)大腸は何なんだということですよね?

 

――小腸と大腸の役割の違いですね。

 

上野川 一般的には、小腸で吸収しなかった水やその他の成分の吸収をする役割があります。その残りカスが便として排泄されるわけですね。こうした働きがあると同時に、大腸には酸素がほとんどありませんから、嫌気性細菌にとっては最高の住処で、小腸よりもとんでもなく多い数の微生物を抱えています。

 

――ざっと百兆もの菌が棲み着いていると言われていますね。

 

上野川 大腸には粘液を作る杯細胞が豊富で、しっかりとした粘液層があり、この層も菌のよい住処になっています。まだ十分にわかっていませんが、大腸がとてつもないスケールの共生空間であることは間違いありません。

 

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「炎症回路」の活性化が多くの病気の発症につながっています(村上正晃インタビュー①)

近年、様々な事実が明らかになってきた免疫分野の中で、とりわけキーワードになるのが「炎症」。体を守るはずの炎症の働きが低レベルで慢性的に続くことで、自己免疫疾患をはじめ、ガンやメタボなど様々な病気の引き金になる? 今回インタビューに登場する村上正晃氏(北海道大学遺伝子病制御研究所所長・教授)は、こうした諸病の原因となる「慢性炎症」の重要なファクターとして、神経系(交感神経系)→ストレスを結びつけた研究を精力的に行っている。すなわち、ストレスによる神経系への局所の刺激が慢性炎症を起こす……免疫系と神経系をつなげる村上氏の研究はきわめて刺激的だ。これまで語られることの少なかった「炎症・ストレス・交感神経」のつながりをふまえつつ、人がどのようなプロセスで病気にかかるのか? 最新科学が明らかにした事実を2回にわたってお届けしたい。今回はその第1回。

■免疫系と神経系をつなげる研究

 

村上 今日はどんなふうにお話していけばいいですか?

 

――まず、先生の研究分野についてお話ください。大学の研究室のホームページには「分子神経免疫学」と書かれていますが、具体的にどのような研究になるのでしょうか? 

 

村上 対象としているのは炎症で、最近では特に神経刺激との関係を研究しています。炎症と言っても幅広く、ほとんどの病気がここに関わってきます。病気のメカニズムを解明するうえでも、「炎症がどうして生じるか?」ということがとても重要になってくるんです。

 

――免疫学の分野でいま非常に注目されている概念だと思いますが、一般的には炎症というと急性炎症がイメージされますよね。

 

村上 もともと炎症というのは、創傷治癒に関するものですからね。たとえば、蚊に刺された時の炎症は、蚊から入った成分を体から除去するために起こる免疫の働きです。本来、必要があって働くものなのですが、オフにできないまま低レベルの炎症が長く続くと、病気の発症につながってしまいます。

 

――いわゆる「慢性炎症」と呼ばれるものですよね。先生の研究は、そうした炎症のどういった点を対象にされているんですか?

 

村上 2008年に、炎症のメカニズムの基盤になるものを発見して、その機構は発見した当初は「IL-6アンプ」と呼んでいたんですが、いまは「炎症回路(炎症アンプ)」と名称を変えました(図1)。その炎症回路が、じつは局所的に神経系で制御されていることが、私たちの研究でわかったんです。

 

――それで「分子神経免疫学」という名前が……。

 

村上 そうですね。もともとは「分子免疫学」が研究室の名称でしたが、新たにそこに「神経」が入ったんです。もしかすると、近々「心理免疫学」に変えるかもしれませんが(笑)。

 

――炎症回路のメカニズム解明を機に、「神経」が入ったんですか?

 

村上 炎症回路のメカニズムを発見したのが2008年、神経系の制御については「ゲートウェイ反射(Gateway Reflex)」と呼んでいますが、こちらは2012年に発見しています。教室の名称が「分子神経免疫学」に変わったのは、2014年からですね。

 

――なるほど。ところで、免疫について調べていく中で、ここ数年、「炎症」というキーワードと出会う頻度が増えている気がするんですが……。

 

村上 流行っていますよね(笑)。

 

――慢性炎症が生活習慣病やメタボリック症候群の発症にもつながっている……いや、我々が病気と呼んでいるものの多くは炎症がカギになっているという印象を持っています。

 

村上 そう思います。私たちの研究では「炎症回路が……」という形で論文発表していますが、炎症回路が自己免疫疾患をはじめ、メタボリック症候群、アルツハイマー、パーキンソン病、ALSを含む神経変性疾患、あるいはアトピー、アレルギーなどの多くのヒト疾患に関わっているということは、2013年に証明しています(図2)。

 

精神疾患についても、てんかんや統合失調症のように、もともと免疫との関係が指摘されていたものはありますが、全体で見るとあまり関連づけられてなかったですよね。私たちはそうした精神疾患との関わりも証明しましたから、多くの病気に炎症回路が関係していると言って間違いないと思います。

 

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