全体の「2割」が変わるだけで調和が訪れます(光岡知足インタビュー①)

腸内には数百兆単位の菌たちが生息し、ヒトの健康を左右する重要な役割を果たしている。――今回インタビューにご登場いただく光岡知足氏は、こうした腸内細菌とヒトの健康の関わりについて研究してきたパイオニアであり、この分野の世界的な権威の一人。よく知られている「善玉菌」「悪玉菌」といったネーミングも氏が命名したものであり、腸内環境と食事、健康とのつながりの多くも、氏の長年にわたる研究のなかで明らかにされてきました。目に見えない菌たちとどうつきあうか? 健康に生きていくことはもちろん、周囲と調和し、心地よく生きていくには、何が心がけていけばいいのか? 今回は、光岡氏の研究の一端をひもときながら、菌たちとの関わりのなかで見えてきた生命哲学についてたっぷりと語っていただきました。

 

■大事なのはバランス。善玉菌が多ければいいわけではない

 

――先生が研究を始められたのは、東京大学の大学院に入られた1953(昭和31)年と伺っていますから、もう60年近くも前のことになるんですね。研究を始められた当初、腸内細菌の働きについてはどのくらいのことがわかっていたのですか?

 

光岡 まあ、ほとんどわかっていないに等しい状況だったでしょうね。腸内に大腸菌のような菌が生息していることは知られていましたが、私たちの健康に関与していると考えられていたわけではありません。私が善玉菌と名づけたビフィズス菌にしても、当時は赤ちゃんの腸内に棲んでいるとしか知られていなかったわけですから……。

 

――ご自身の便を顕微鏡で観察することで、大人の腸内にもビフィズス菌が生息していることがわかったと伺っていますが……。

 

光岡 そうです。私の研究はニワトリの腸内フローラ(=様々な菌によって形成される腸内の生態系のこと)を観察することから始まったわけですが、研究を始めてすぐに肝心の菌を培養する方法自体が確立されていないことに気づきました。そこで、苦労して培養法を開発していくうちに、従来の100~1000倍の菌を発育できるようになったんです。

 

――そもそも、腸内に無数の菌が生息しているということ自体、知られていなかったと……。

 

光岡 しかも、この方法で自分の便を培養したところ、乳児の腸にしか生息していないはずのビフィズス菌が多数発見されたわけです。当時の常識に反することだったので、とにかく驚きました。

 

――いまでは善玉菌の名でおなじみのビフィズス菌ですが、最初は相手にもされていなかったわけですね。

 

光岡 ええ。学会で話をしてもなかなか信じてもらえず、「そんなことはありえない。光岡は何か違うものを見たのだろう」と言われていました。そのくらい研究が進んでいなかったのです。

 

――なるほど。「腸内細菌が健康のカギを握っている」ということが認識されるようになるまでには、かなりの時間が必要だった……。

 

光岡 腸の内部というのは、胎児の段階ではまったくの無菌なんです。それが、この世に生を受けるのと同時に徐々に菌たちが入り込み、独自の腸内フローラを形成していきます。ビフィズス菌は、生後3日後あたりから増えはじめ、一時は9割以上の占有率になります。

 

――赤ちゃんの腸内にビフィズス菌が多く生息しているのも、そのためだと。

 

光岡 ほかの菌も徐々に増えていきますから、離乳後には20%くらいに減ってしまいますが、この割合が維持されていれば悪玉菌と呼ばれる有害な菌たちの繁殖が抑えられ、腸内フローラは安定します。腸は全身の健康の要にあたる器官ですから、腸内フローラの状態が健康のバロメーターになるのです。

 

――赤ちゃんの時のように多くはないけれども、大人になってもビフィズス菌は一定の割合で棲息している。その割合によって腸の健康、ひいては全身の健康状態が左右されるわけですね。

 

光岡 ただ、気をつけなくてはならないのは、ビフィズス菌が多ければ健康になれるというわけではないということです。大事なのは割合です。

 

――その割合がおおよそ20%くらいであると。

 

光岡 そうです。個人差はありますが、おおよその目安として20%という数字が維持できれば、その人は生涯にわたって健康でいられるでしょう。ただ、加齢とともに悪玉菌の割合が増えていきますから、この割合を維持するには食事などでコントロールすることが大事になってきます。 

――このビフィズス菌がヒトの健康にプラスに働く善玉菌であるとしたら、悪玉菌は……。

 

光岡 代表的なのは大腸菌、それに数は少ないですが、ウェルシュ菌という極悪の菌もいます。大腸菌は状況によってはプラスに働くこともあるのですが、ウェルシュ菌はこうしたいいところがまったくない。とことん悪い存在なんです。

 

――そんな悪い菌が腸内に生息していて大丈夫なんですか?

 

光岡 どんな悪い菌でも、バランスが保てていれば悪さはしません。あくまでもヒトの健康を維持するうえで善(プラス)か悪(マイナス)かということなんです。

 

――悪いからといってすべて排除する必要はないんですね。

 

光岡 勘違いしている人が多いのですが、どんなに健康であっても悪玉菌がゼロになるということはありません。腸内には悪いものも必ず生息している。それを人間の都合で無理に排除しようとしたら、かえってバランスが崩れてしまいます。

 

――なるほど。なんだか生き方、考え方の問題にもつながってくる話ですねえ。一般的には、悪いものを排除すれば良い状態に近づくと考えられているところがありますが、それでは調和できないわけですから。人間の世界でも、悪を排除しようとすると調和どころか、戦争が起こりますもんね。

 

光岡 菌とは共生することが大事なんです。世の中全体のことになると漠然としてしまいますが、私たちの体のなかには腸という一個の完結した世界(生態系)があります。そこで見えてくる真理は、現実社会の雛型のような面があると言えますね。

 

――実際、腸内の生態系が調和していると、体調がいいだけでなく心も穏やかになります。平和が大事だというなら、まずは腸内の平和から回復させていかないと。

 

光岡 それはそうでしょう。腸内では善も悪もどっちつかずのものも含めて、すべてが一定の割合で共生していることが調和=平和の本質です。邪魔だから排除しようというのは、自然の摂理に反します。

 

――物事を善と悪で分けることは人間のエゴなんですね。

 

光岡 そもそも、自然界に善も悪もありません。善悪はあくまで便宜的なものなのです。

 

――善玉菌、悪玉菌という呼び方も、膨大な数の腸内細菌をわかりやすく伝えるためのものでしょうから。ステレオタイプにとらえるのではなく、その意味するところをしっかり理解しないといけないですね。

 

光岡 繰り返しますが、大事なのはバランスです。善も悪も受け入れる懐の深さが自然界にはあります。善と悪の違いを認識したら、今度はその善悪にとらわれず、ありのままに自然を捉える感覚が必要になってきます。まずはそうした点を学ぶべきでしょう。

 

 

■全体の「2割」が変われば調和が訪れる

 

――先生、先ほどから20%という数字が何度も出てきますが、自然界にはこれとよく似た「2・8の法則」と呼ばれる捉え方がありますよね?

 

光岡 ええ、アリやハチの世界でも実際に働いているのは2割くらいだと言われています。すべてが一生懸命に働かなくても、彼らの生態系は問題なく機能しているわけです。人間の社会だってそうでしょう? 世の中には優秀な人もいますが、いつもサボっている人も、仕事ができない人もいる。平気で悪いことをする人もいる。学校教育にも言えることだと思いますが、いくら指導をしたところで、全員を優秀にすることはできないでしょう。

 

――善玉ばかりの社会なんてありえないですもんね。

 

光岡 伸びる人は伸びればいい。そうした人の才能を伸ばしてあげることはとても大事なことですが、そこからこぼれた人を排除しているようでは、社会はどんどんとおかしくなります。できない人がいても別にいいんです。無理に変える必要はありません。

 

――全体の2割が変われば十分なんですね。全員が変わらなくても、それだけで調和が訪れる。そう考えると、なんだか世の中って変えていけそうな気がします。

 

光岡 腸内細菌の世界も、大部分は善玉にも悪玉にも分類ができない、どっちつかずの菌で占められています。こうした菌は日和見菌と呼ばれていて、普段はとてもおとなしいのですが、悪玉菌が増えてくると悪になびき、体に害を及ぼすものも出てきます。

 

――このへんも人間社会と似ていますね。なんだか選挙の時の浮動票みたいです。笑。

 

光岡 ただ、日和見菌は数が多いので影響力があるように見えますが、2割の善玉菌がしっかり働いていれば悪玉菌の働きが抑えられ、日和見菌も悪になびくことはありません。その意味でも、キャスティングボードを握っているのは善玉菌といえます。

 

――善玉菌をいかに増やすか? そこに腸内環境を改善することの意味があると……。

 

光岡 腸の健康に関してはその通りです。食事とストレスケアをしっかりやれば、腸内フローラの改善は決して難しいことではありません。ただ……。

 

――ただ?

 

光岡 ただ、人間の社会に当てはめた場合、少々厄介な問題が出てきます。具体的には、脳の働きがからんできます。

 

――ああ、脳ですね。確かに微生物の世界とは大きく異なります。

 

光岡 菌のような微生物には脳がありませんから、自然の法則に忠実に従うことができます。ハチやアリも脳は小さいですから、ほとんど本能だけで生きているでしょう。しかし、人間は脳が発達しているため、自然の摂理に反することを平気で行うところがあります。

 

――発達した脳がかえって問題を複雑にしているんですね。この問題とどう向き合ったらいいんでしょうか?

 

光岡 難しい問題ですが、自分自身を律する意識があるかどうかでしょう。そこで必要となってくるのが、哲学であり、宗教なんです。「真・善・美」という言葉がありますね? 人間がこの世界と調和して生きていくためには、この真・善・美の探究がどうしても必要になってきます。

 

――はい。真・善・美というとちょっとカタいイメージがありますが、おっしゃることの意味はよくわかります。モラルのようなものだと考えればいいでしょうか?

 

光岡 一般社会ではキレイごとのように思われているところがありますが、少なくとも私が属している研究者の世界では、このモラルを守るということが一番重要です。

 

――先生は、中学時代の恩師の一人だった中村草田男先生(俳人・国文学者)に言われた「純粋に生きる」という言葉をずっと大事にしてこられたんですよね。

 

光岡 ええ、私が腸内細菌学という一つの分野を樹立させることができたのも、欲得抜きでただ真理が知りたいと強く思ってきたからなんです。政治や経済の世界でどこまで通用する言葉かわかりませんが、研究者は真理を探究しているわけですから、まず純粋でなくてはなりません。いいかえれば、政治や経済の世界の価値観を研究の世界に持ち込んではいけないということです。

 

――これまで先生に多くのお話を伺ってきましたが、この一点に関してはまったくブレがなかったことに気づかされます。

 

光岡 確かにブレはありませんでした。まあ、研究馬鹿だったんですよ(笑)。

 

――いやあ、ブレがなかったとハッキリ言えるところが本当にすごいなあって思います。このインタビューを読んでいる人がどう感じるのかわかりませんが、これをキレイごとだと言ってしまったらクリエイティブなものは何も生み出せないでしょう。

 

光岡 残念ながら、研究者のなかにもポストの獲得や派閥争いに明け暮れている人は多いんです。

 

――「自分が好きなことをコツコツやっていたら、自然と認められるようになった」というふうにはいかないんでしょうかね? 僕は一分野を築いた人は、自分自身の内面に何らかのモラルを持っていたと思っています。

 

光岡 そういう意味では、研究の分野だけに限った話ではないのではないのかもしれませんね。

 

――僕も純粋に生きようと思います(笑)。馬鹿と言われてもブレずに……。

 

 

■人生を根底で支えてくれたもの

 

――ここからは、先生の生命哲学について、さらに掘り下げてお話を伺っていきたいと思います。まず、60年にも及ぶ研究生活を振り返って、いまどのような感想をお持ちでしょうか?

 

光岡 私は、研究者としてこのうえなく幸福な生涯を送ってきました。自分がやりたいことに打ち込める環境が用意されていましたし、それを助けてくれる人もたくさんいました。自分自身の努力もさることながら、そこには天の助けがあったのだと感じています。

 

――天の助けというのは……。

 

光岡 うまく表現できませんが、理屈抜きにそう思える感覚が、私の中にはずっとありました。おかげで何の迷いもなく、自分の仕事に打ち込むことができたのです。

 

――そうした心境でいられるようになったきっかけについて伺いたいのですが……。先生は確か、中学4年の時に終戦を迎えられたわけですよね?

 

光岡 そうです。その少し前に父が急死したこともあり、伯父の援助で高校に進学したのですが、なかなか将来が定まらない。

 

――将来に対する夢や目標はなかったんですか?

 

光岡 当時は漠然と、植物分類学のようなことをやりたいと考えていました。高校時代の恩師に、前川文夫先生というこの分野の大家がおられたこときっかけだったのですが……。

 

――ただ、ハッキリと気持ちが定まっていたわけではなかった。

 

光岡 そうです。ですから、学校の勉強もろくにせず、人生に悩みながら家の近くの裏山を一人で歩き、思索にふけってばかりいました。そんな私に、自分の将来を決定づける大きな転機が訪れたのは、高校2年、18歳の早春の時のことです。あなたには何度かお話したと思いますが……。

 

――はい、栗山での回心のエピソードですね。

 

光岡 その日のことは80歳を過ぎたいまでもハッキリと脳裏に焼きついているのですが……。いつものように市川(千葉県)の家を出て、裏山から国府台の方向へ散策していた時のことです。国府台の浄水場(栗山浄水場)近くの木漏れ日が差し込んでいる森に入って考え込んでいる時、そこで忽然と天の声を聞いたんです。

 

――その天の声について、先生のご著書(技術評論社刊「人の健康は腸内細菌が決める!」)に次のように書かれていますね。

 

「人はそれぞれ容姿も性格も能力も、生まれた環境も時代も違う。しかし、それは生まれながらに与えられたものであり、それぞれその運命を受け入れて生きていくしかない。不平等や不公平に感じることがあっても、それに耐え、自分の個性を伸ばし、他人の個性は尊重する。そうやって将来の夢に向かって真っ直ぐに生きていくことこそ人生である……。」

 

光岡 そうです。啓示と言い換えてもいいのかもしれませんが……。

 

――それは自分が思うのとは違うんですか?

 

光岡 自分でそう思ったわけではありません。こうした言葉が一瞬にして降りてきたんです。その瞬間、私は感謝の気持ちで一杯になり、湧き上がってきた言葉を無条件で受け入れることができました。こうした不思議とも言える体験が、その後の自分の人生を根底で支えてくれる精神的な核になったんです。

 

――具体的に何か目に見える変化があったんでしょうか?

 

光岡 母親にむやみに反抗しなくなりましたし、勉強にも身が入るようになりました。ただ、自分の現実が劇的に変わったというわけではありません。大学受験には失敗し、1年間は中学の先生をしていました。当時は大学を出ていなくても、先生になれたんですね(笑)。その後、大学に入ってからもすぐに進路が見つかったわけではありません。先ほどもお話したように、自分の将来がハッキリと定まったのは、大学院に進学して、腸内細菌の研究をするようになってからです。

 

――高校時代の夢だった植物分類学ではなく、細菌の分類や培養を始められたわけですね。

 

光岡 紆余曲折はありましたが、振り返れば一本の線でつながっていたんだなと実感できます。これは誰の人生でも、きっと同じことが言えるのでしょう。

 

――ただ、同じことが言えるはずなのに、そう感じられず、自分の道を見失ってしまう人も多いのかもしれません。

 

光岡 私の場合、栗山での回心があってから、この世界で自分が生きているということが無条件で受け入れられるようになっていたんだと思います。だから、私はつねに楽天的でいられました。それが研究者としての自信にもつながりましたし、創造力の源泉になっていたんだと思います。

 

――研究の際にも、まずひらめきがあり……。

 

光岡 そう、最初にひらめきがあって、そこで答えがわかっちゃう。これを仮説にして、一つ一つ丹念に検証していくんです。腸内細菌学の基礎はこうやって確立されていったんです。

 

 

■善玉菌が増えるのは「生きた菌が腸内に届くから」ではない

 

――先生、せっかくインタビューの機会を作っていただいたんですから、最後に健康の秘訣についてもお伺いしたいのですが……。腸内の善玉菌を増やす手段として、一般的にはヨーグルトの摂取がすすめられることが多いですが、これはどこまで効果があるんでしょうか?

 

光岡 ヨーグルトを食べると確かに善玉菌は増えやすくなります。ただ、それは「生きた菌」が腸まで届くからではないんです。

 

――テレビのCMでは、そのことばっかり強調していますよ。

 

光岡 それは正しくはありません。生きた乳酸菌(ビフィズス菌)が腸まで届き、増殖するということは普通はないのです。

 

――生きた菌であるかどうかは腸内フローラを改善する決め手とは言えないわけですね。

 

光岡 そうです。生きた菌であろうと死んだ菌であろうと、関係はありません。腸内に菌が運ばれると、その菌の体に含まれる成分(菌体成分)によって腸内に集まっている免疫細胞が刺激されます。その結果、免疫活性によって体全体のホメオスタシス(恒常性)が安定し、機能性が高まる効果が期待できるんです。腸内フローラの改善は、そうした生体活性の一部として捉えるといいでしょう。

 

――うーん、そのお話で疑問が2つほど湧いてくるんですが……。まず、「生きた菌」ばかりが強調されてきたのはなぜなんですか?

 

光岡 それは、「生きた菌が腸まで届く」と言ったほうが、悪玉菌の増殖が抑えられるというイメージがあり、説得力があると考えられてきたからでしょう。国内外の研究者のなかにもそう信じている人が多いのですが、先ほどお話ししたように、学問的には正しくはないんです。

 

――実験して検証されているわけですよね。

 

光岡 そうです。

 

――では、もう一つの疑問でもあるんですが……。学問的な事実としてこうした点を指摘する必要性は理解はできますが、「死んだ菌でもいい」ということを一般の人に伝える意味はどこにあるんでしょうか?

 

光岡 死んだ菌でもいいとなると、長期間発酵させた乳酸菌生成物を加熱処理して、錠剤などで摂ることもできるようになります。ヨーグルトが200mlで20億個程度の乳酸菌(ビフィズス菌)が摂取できるのに対して、乳酸菌生成物を製品として加工すれば、わずか数グラムで1~2兆個の摂取が可能になります。

 

――製品というのはサプリメントのことですね。サプリメントと比べたら、ヨーグルトではずいぶん効率が悪いことがわかりますね。

 

光岡 最近の研究では、1日2兆個の大量摂取で潰瘍性大腸炎が改善されたという海外の報告例もあります。これだけの量の乳酸菌をヨーグルトで摂取しようとすると、ゆうにバケツ一杯分は必要になってしまいます。

 

――確か、ヨーグルト研究のパイオニアであるイリヤ・メチニコフ(1845~1916)は、100年前に300~500mlの摂取をすすめていたと思いますが……。

 

光岡 目安としてそう述べていますが、確実なことを言っているわけではありません。どれほどの乳酸菌を摂取すれば腸にプラスの影響が与えられるのか、現在でもハッキリ研究されているわけではないんです。

 

――ヨーグルトの場合、砂糖が入っているものも多いですしね。

 

光岡 死菌でも効果があるのですから、本当はカルピスのような殺菌加工した乳酸菌飲料でもいいのですが、砂糖が入っているのであまりおすすめはできません。

 

――こうして考えると、スーパーで山のように売られているヨーグルトも、無条件に健康にいいとは言い切れないんですね。

 

光岡 まあ、私自身も30年以上実践していますが、加糖していない無脂肪タイプのヨーグルトを、毎日一定量いただくことは悪いことではありません。ただ、ヨーグルトに限ったことではありませんが、一つの食品に過剰な効果を求めたりせず、腸に優しい食品を幅広く摂ることが大前提です。

 

――具体的にはどんな食事をすすめますか?

 

光岡 動物性タンパク質は悪玉菌のエサになりますから、やはり肉類の摂取はなるべく減らしていったほうがいいでしょう。そのうえで野菜や果物、海藻などの植物性食品をたっぷり摂るようにする。こうした植物性食品をおすすめするのは、悪玉菌を繁殖させる腸内の腐敗物質を排泄しやすくする食物繊維が豊富なものが多いからです。

 

――先生はオリゴ糖の研究開発にも携わってこられましたよね?

 

光岡 糖には様々な種類がありますが、オリゴ糖の良いところは腸内で善玉菌のエサになる性質があるということです。また、摂取しても人間の持っている消化酵素では消化されないため、腸から吸収されず、血糖値の急激な上昇が抑えられるという利点もあります。

 

――オリゴ糖については意外に知らない人が多いですよね。とりあえず、家庭で使っている白砂糖をオリゴ糖に変えるだけでも、体にはプラスになりそうですね。

 

光岡 そうですね。食べ物を栄養素の種類や量だけでなく、腸内細菌との相性で捉え直すことが大切です。何をどれだけ食べればいいのか、まずおなか(腸)に聞くようにすること。便がどれだけ硬いか、臭いにおいがどれだけするかも、腸内フローラの状態を知る目安になります。

 

――興味のある人は先生のご著書(技術評論社刊「人の健康は腸内細菌で決まる!」)でしっかり勉強してほしいと思いますが……。

要はおなか(腸)に常在している菌たちが答えを教えてくれるわけですね。

 

光岡 そうです。頭であれこれと難しいことを考える前に、まず腸に目を向け、菌たちと対話することからはじめてください。それが、健康にすごしていくための一番の秘訣と言えるでしょう。

 

――先生、長時間のインタビューどうもありがとうございました。また機会を見つけて、ぜひお話を伺えればと思っております。

 

 

リトルサンクチュアリHPより転載)

 

↓続きはこちらをご覧ください。

 

■「生きた菌が腸まで届くから健康になれるわけではないんですよ」(光岡知足インタビュー②)

 

■腸内細菌と仲良くするための食事とは?(光岡知足インタビュー③)

 

 

★プロフィール

光岡知足(みつおか・ともたり)

1930年、千葉県市川市生まれ。東京大学農学部獣医学科卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。’58年、理化学研究所に入所。ビフィズス菌をはじめとする腸内細菌研究の世界的な権威として同分野の樹立に尽力。腸内フローラと宿主とのかかわりを提唱し、腸内環境のバランスがヒトの健康・病態を左右すると指摘した。「善玉菌」「悪玉菌」の名づけ親としても知られている。

 

ベルリン自由大学客員研究員、理化学研究所主任研究員、東京大学農学部教授、日本獣医畜産大学教授、日本ビフィズス菌センター理事長を経て、現在、東京大学名誉教授、理化学研究所名誉研究員、日本獣医生命科学大学名誉博士。日本農学賞、科学技術長官賞、日本学士院賞、メチニコフ賞などを受賞。趣味はクラシック音楽鑑賞とバイオリン演奏。大学在学中からバイオリン奏者として市川交響楽団にも在籍。

 

著書は「腸内細菌の話」「健康長寿のための食生活」(以上、岩波書店)、「腸内菌の世界」(叢文社)、「人の健康は腸内細菌で決まる!」(技術評論社)、「腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ」(祥伝社)、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」(ハンカチーフ・ブックス)など多数。

  

◼︎「バイオジェニックス」についてはこちら→腸内細菌のワンダーランド